人間がへた

誰のためにもならないことだけ書きます。半径三メートルの出来事と、たまに映画と音楽。

知らぬ間に叔母への進化を遂げる

三連休を使って、東京に母と長兄が遊びに来ていた。

ご飯を食べながら近況報告をし合っていた。以前から次兄が結婚するしないで揉めているという話を聞いていたので、進捗について尋ねた。

「結婚したよ」

「あ?」

予想外の答えに、ついヤンキーのような反応が出てしまう。本当の驚きというのは、人から選択の隙を奪う。「はっ?」なんて返答は、いくら驚いているように見えてもまだ余裕を残している。だがわたしの驚きは「あ」。五十音の、いちばん最初のやつ。読み書きで最初に練習する文字。ねじれにねじれたわたしも、小さい時は素直に「あ」から練習していた。驚嘆は人の幼児性を暴露する。

「あと子どももいる」

「えっ!?」

あいうえおだけで会話が成り立っている。驚いた時の人間には、あ行さえあれば十分なのだ、という発見があった。

まあ、とりあえず母が言うには、次兄は結婚したらしい。そして子もできたらしい。わたしは知らない間に叔母になっていたらしい。所謂授かり婚というやつで、色々大変だったようだが、関係ないわたしにとっては酒の肴でしかない。ワインを二本開けた。そして記憶を無くす。

我が家の両親は大層頭の固い、古いタイプの人間である。わたしは末っ子長女なので、小さい頃から「結婚相手は親が決める」と言われて育った。だからこそ大阪→東京と桜前線の如く北上を続けて地元から逃げてきたわけだが。両親の求める結婚相手への条件もまあまあのハードルがあった。羅列してもキリがないので割愛するが、簡単に言えば「高学歴・高身長・高収入+α」である。バブルの遺物は、両親の頭の中でバリバリに生きている。

特に学歴や家柄にはうるさい。四大卒は当然。最低でも早慶レベルをご所望。marchレベルだと、口がとんがる。「学歴が全てじゃないけどねえ」という前置きから、20分間学歴の大切さを聴かされる会が始まる。そんな両親なので、よく許したな、という部分にも驚きがあった。相手がとても素敵な人らしいので、結局は良いところに着地したそうだが。

「今ならわたしたちも結婚相手へのハードル下がってるよ」

母が言った。これは明らかにダメンズウォーカーのわたしに対する牽制球である。ただ残念なことに相手がいないので「むん…」みたいな返事をして終わった。条件どうこうにも至れない。26歳彼氏無し女の辛いところである。